私が参加している融資コンサルタント協会において、「創業融資の審査が厳しくなっている
のでは」との問い合わせが多くなっているとの情報に接しました。

創業融資支援を行っている士業・コンサルタント、ひとり・ふたりではなく10人以上の
士業・コンサルタントからで「最近、公庫の創業融資の審査が厳しくなっていませんか」
という問合せ情報です。

断られた案件その①:飲食業での創業

詳細は書けませんが、ある飲食店の創業例を挙げると、申請時点での状況は以下の通りです。

<申請内容>
・融資申請額:900万円
・自己資金額:400万円
・創業する業種の経験年数:10年
・信用情報:問題ナシ

上記の内容なら、よほど「創業計画書」の内容がひどくない限り、今までなら通っている
ような創業融資案件です。

しかし、金融機関の担当からは、以下の理由で断られたそうです。
・出店を希望する立地では、創業計画における売上額を確保するのは難しいのではないか
・少し売上の根拠を明確にしないと、創業がうまくいかない可能性が高いと思われる
今回は見送らせていただきます。

 

創業時の必要資金の総額と自己資金の割合

金融機関の担当者に「理想とする自己資金額は?」と尋ねると、ほぼ、どの金融機関
担当者も「創業に必要な資金の、3割程度は準備してほしい」と回答します。
自己資金が多めにあれば、事業が計画通り進んでいなくて赤字が続いても、自己資金で
赤字を補填できる期間を長めに確保できます。
軌道に乗せるまで、なんとか耐えることができるのです。

すなわち、自己資金が多いと「生き残る確率が高まる」と考えられるため、余裕をもった
経営ができるようにと「3割程度の自己資金は用意してほしい」と金融機関は希望するの
です。
しかし自己資金が3割なければ断られてしまうというわけではなく、業種によっては自己
資金が1割や2割しかなくても借りることができたという事例は豊富にあります。

 

断られた案件その②:美容室の開業

美容室は、「自己資金が少なくても必要資金を借りられる業種」の一つです。

美容室の創業に必要な資金の1割や2割程度自己資金であっても「創業に必要な自己資金を
貯めることができた」だけで、評価は高まります。

その額が創業に必要な資金の1割や2割程度しかなくても、「創業に対する強い意志を持って
いる」、「給料の中で、やりくりして自己資金を貯めた」と評価され、結果、審査に通る
ことがよくあります。

ベテランの美容師になると、固定客を多数抱えていることも多いでしょう。
独立後も「安定した売上を早期に確立することが可能」と高い評価を得られ、自己資金が
少なくても審査が通りやすい要因となっています。

しかし、「もう少し自己資金を用意してもらいたい」という理由で断られたようです。
これも今まででは、あまりなかったことのようです。

これは一部の案件であり、全てがそうではありませんが、厳しくなったと感じている士業
・コンサルタントは多いです。

なぜ、創業融資の審査が厳しめになったのか

最近の創業融資を断られた理由の傾向を研究した情報からは、日本政策金融公庫の創業融資
の審査は厳しくなっているようです。
その原因は、2024年春に出された金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」
の改正にあるのかもしれないという話があがりました。
この改正では、「安易な融資を行わず融資先の経営内容や事業計画の内容をしっかりと
見極めるように」といった趣旨が記載されています。

一方、日本政策金融公庫のホームページに、こう書かれています。
日本政策金融公庫は、「一般の金融機関が行う金融を補完すること」を旨としつつ、国の
中小企業・小規事業者政策や農林漁業政策等に基づき、法律や予算で決められた範囲で
金融機能を発揮している政策金融機関です。
出典:日本政策金融公庫 Q1日本公庫はどのような会社ですか?A1

日本政策金融公庫 公庫は金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」に
縛られることはありませんが、財務省所管の「民間金融機関を補完するための国が
経営している金融機関」という性格上、民間金融機関と足並みを揃える動きになら
ざるをえません。

上記の改正の内容にあるように、「申請内容を吟味した上での融資審査」が求められる
ようになっているのでしょう。
だから、今までよりも審査が厳しめになっているのではないかと考えられます。

創業融資を成功させる確率を高めるためにしておくべきこと 創業融資を成功させる確率を
高めるために、創業融資支援を行う士業・コンサルタントがしておくべきことについて
お伝えします。

(1)売上計画の根拠の精度を高める
創業融資の際、最近特に公庫から指摘されることの一つが、「売上計画の根拠を明確に説明
してほしい」。
断られた案件その①飲食店の事例でも、同様の謝絶理由でした。
「何となく、これぐらいの売上が見込めるのではないか」という売上計画では、もう通ら
ないということでしょう。

たとえばランチ営業も行う居酒屋の場合なら、「見込み客を集めるために、このような
取組を行います。
この取組を行った結果、客単価◯◯円で◯◯名の集客を見込んでいます」と説得力高く伝える
ため、以下の項目を考えた上で、1年間の毎月の売上計画表の作成くらいは行っておきたい
ものです。
●ウィークデイのランチ営業
●ウィークエンドのランチ営業
●金曜日の夜の営業
●ウィークエンドの夜の営業
●季節要因を加味した「客単価」「客数」の増減 など

(2)所定の創業計画書とは別の詳細な創業計画を作成する
公庫の創業計画書は、A3サイズで見開き1枚。これだけでは、創業する事業について詳細な
情報を伝えることができません。

「創業する事業が成功できる理由」に説得力を持たせるのは難しいでしょう。
そこで、緻密に考え抜かれたA4サイズ10枚程度の創業計画書を提出することで、「成功する
確率が高い」と納得してもらいやすくなります。

(3)面談のシミュレーション
創業融資の場合、創業計画の内容をより詳しく聞くための「担当者による面談」が必ずあります。
その面談で、創業者がうまく説明できない場合、融資審査に通らないことがよくあります。
事前に面談のシミュレーションを行い、想定される質問に対してスムーズに答えられるように
練習しておくことで、審査が通る確率を高めることができます。
創業者を支援する士業・コンサルタントは、ぜひ創業者と面談シミュレーションを行っておき
ましょう。